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  自転車都市・ミュンスター

ミュンスター市における都市計画 ―自転車と車の共生―

ドイツで最も自転車にやさしい都市のミュンスターでは、人口の約2倍にあたる自転車が所有されています。また1997年にドイツで最も自転車にやさしい都市に選ばれた当市は、2003年にもADFC(ドイツ自転車クラブ)による自転車環境テスト(Fahrradklimatest)で2位以下に大差をつけて、改めて『ドイツで最も自転車にやさしい都市』として認められました。さらにADAC(ドイツ自動車クラブ)が2004年ドイツの22の大都市を対称に行った専門家テスト「都市における自転車利用」では、ミュンスター市が唯一「大変良い」の評価を受けています。

自転車専用道路の整備、交差点での自転車の安全の確保および安全かつ屋根のある自転車駐車場の整備に重点を置いた都市建設により、ミュンスターはドイツで第一の自転車都市として発展しました。

当テクニカルビジットプログラムではこうした自転車政策の具体的背景、対策、活動を環境および都市計画の観点よりご説明いたします。また都市計画局の担当者(Ms. Güttler)からのレクチャーとあわせて、担当者と一緒に市内を自転車で回る自転車利用体験プログラムもご用意しています。

 

 

 

ドイツで一番自転車にやさしい町、ミュンスター

ドイツ語に“freundlich”という言葉がある。

「親切な」「思いやりのある」という意味だが、他の単語につけていろいろな言葉を作ることもできる。

“Umweltfreundlich”(ウンヴェルトフロントリヒ)といえば「環境(Umwelt)にやさしい」

そしてミュンスターの街を形容する言葉は、“Fahrradfreundlich”(ファーラートフロントリヒ)

ミュンスターはドイツ人も誰もが認める「自転車(Fahrrad)にやさしい」町なのだ。

 

古都・ミュンスターが“自転車の町に”なった理由

 1997年、ドイツで信頼されている商品テスト誌【Test】では、自転車にやさしい町をテーマに調査を行った。その結果、ミュンスター、フライブルクなど3つの都市がTest誌のお墨付きをもらったのだが、その際の読者アンケートによる人気投票で、ミュンスターは、“もっとも自転車にやさしい町”に選らばれた。“環境先進国”として知られるドイツでは、各地で自転車に配慮した町作りが見られるが、なぜミュンスターが特に自転車の町として有名になったのだろうか。その答えを見つけるには、少しばかり歴史をさかのぼる必要がある。

 ミュンスターはドイツ西部、ルール工業地帯を擁し、人口の密集するノルトライン・ヴェストファーレン州にある。人ロ28万人弱のこぢんまりとした町だ。ミュンスター(Muenster)は一般に大聖堂という意味だが、旧市街の中心に立つ大聖堂(呼称は“ドーム”。同じく大聖堂の意味)はミュンスターの象徴的建造物であり、それがそのまま町の名前となっている。

 三十年戦争(1618~1648年)ではミュンスター(旧教側)とその北のオスナーブリュック(新教側)の双方の地でヨーロッパ最初の国際会議が行なわれ、その結果、1648年和平条約であるウェストファリァ条約が調印された(ウェストファリアはヴェストファーレンの英語読み)。フランス、スウェーデン、スペインなどヨーロッパの地図が大きく塗り替えられたそのとき、このミュンスターが歴史の舞台となっていたのだ。

 ずっと時代が下がって先の大戦では、ミュンスターもまた激しい爆撃を免れ得ず、市内の建物はほぼ壊滅的に破壊されてしまった。しかし、このときの模試の復興計画がその後のミュンスターの方向性を決めたと言っても過言ではないだろう。

「ドイツではミュンスターだけでなく、多くの町が戦争で破壊されました。そして、たいていの町ではアメリカ風の碁盤の目のような道路を備えた、まったく新しい町作りを目指しました。でもミュンスターでは、18世紀の町並みを生かした町作りをしよう、という気運が高かったのです」と語るのは、ミュンスター市で自転車及び公共交通機関に携わるギュットラーさん。

 直線的に整備された道路は便利ではあるが、より速く走ろうとする自動車にとって“やさしい”道だ。そのような道路では歩行者や自転車は脇役で、常に自動車におびえ、遠慮しながら通らねばならない。

「ミュンスターでは、すでに1948年にすべての幹線道路に自転車の通る道をつけるよう決めました。また復興したあとの道路も中心からクモの巣のように広がった中世からの道そのままで、当時は他の町から“遅れている”というようなことも言われました。でも、今ではうらやましがられていますよ」。ギュットラーさんはにっこり微笑んだ。

 

目指すのは自効車の“排除”ではなく、自動車との“共存”

 自転車にやさしい町と聞くと自動車を締め出して自動車の台数を減らすことが目的なのだろう、と考えがちだ。しかし、それをただすとギュットラーさんは首を横に振った。「自動車には自動車のよさがあります。自動車を手放せと言っているのではありません。今後も自動車は増えていくでしょう。でも自転車で行ける場所状況であれば、自転車を使ってほしいい。だから自動車をへらすのではく、どうしたら自転車も共に増やしていくことができるか、と考えているのです」。

現代社会にあっては、自動車を減らすということは非現実的なこと。現実にあらがうのではなく、現実を見据えたうえでよりよい将来を目指して町作りをしていく、それがミュンスターの姿勢なのだ。

 ミュンスター市でとった統計によると、1994年に比べて2001年は自転車を利用する割合が31.7%から35.2%と3.5ポイント増加している。自動車も37.3%から40.5%と3.2ポイントの増加だが、徒歩、自転車、公共の交通機関の総計で比べると、2001年では59.5%と、自動車の利用を上回っていることがわかる。自動車も増えるけれど、自転車も増やす、このコンセプト通りの町作りが行なわれているのだ。

 また、大学(単科大学もあわせて)が6つもあるミュンスターは、人口の5分の1は学生という若者の町でもある。町を歩いていても、リュックを背負い、さっそうとペダルを踏む若者の姿をよく見かける。市民がどのような目的で自転車を使うかを見ると、やはり通学が一番多く、49.0%。学生の2人に1人は自転車を利用していることになる。

 次いで34.9%は散歩やツーリングなど余暇の時間に、通勤に自転車を利用する人34.2%。買い物は31.8%ともっとも低く、かわりに車が44.5%と多い。これは荷物を積むには自動車ほど適していない自転車にとっては、しかたのない結果かも知れない。

 いずれせよミュンスター市民が旅行、買い物、通勤、通学等に自転車を使用する割合は全体で35.2%。ドイツ全土の平均が12%、ノルトライン・ヴェストファーレン州のような自転車にやさしい町が集中している地域でも20%であるから、ミュンスターでの自転車の利用が群を披いて多いことがわかるだろう。

 

3300台の自転車を収容可能、ラートシュタツィオーン

 では、自転車を利用しやすくするために、ミュンスターでは具体的にどのような施策がとられているのだろうか。これは逆に私達が自転車を利用する際に何が問題になるかを考えてみるとわかりやすい。

 まずは駐輪場。ドイツでも大きな町に行くと、日本と同様、駅前には自転車があふれ、ところかまわず放置された自転車は歩行者の通行の妨げになっている。ミュンスターでも常時3000台の自転車が中央駅前に放置され、混沌とした状態だったという。野さらしのため雨や雪が降れば自転車はいたむし、不心得者によっていたずらされたり、盗難にあうこともある。

 そこでミュンスターでは、大規模な駐輪場“Radstation”(ラートシュタツィオーン)の建設が計画された。90年3月のことだった。工事は97年末に始まり、99年6月に完成、オープンした。地上部分の側面はガラス張り。これによって日中は太陽光が入り、地下でも暗いというイメージを感じさせない。収容能力は約3300台。上下2段にして空間を無駄なく使っている。出入り口のゆるやかな坂を下ったところに管理事務所があり、常時係員がいて監視の目も行き届いている。

 中駅前広場の地下にあるから、自転車を預けたらすぐに電車に乗ることができる。いわゆるパーク&ライド。この利便性も受けて、オープンして1年目には稼働率80%を超え、今ではすっかり“ミュンスターの顔”になっている。総工費は1300万マルク。このうち半分以上はノルトライン・ヴェストファーレン州が負担し、残りは市で徴収していた駐車場設置義務の免除金(ドイツでは建物を建設する際にその建築物の規模に応じて駐車場を設置する義務があるが、それを免除してもらうため払われるお金のこと)をあてたため、ミュンスター市としての税金は1銭も使われていないという。

「以前は、自転車が朝止めたとおりの場所に夕方まであることはまれだった」とラートシュタツィオーンの利用者は語る。「毎日“自転車さがしゲーム”をやっているようなものだったよ。見つかったと思うと、ほかの自転車の下敷きになっていることもあったしね」「屋根つきっていうところかいいのよ。もう雨や雪の日でもサドルにビニールをかけなくてもいいから、嬉しいわ」「前は盗まれてもいいように占い自転車に乗っていたけど、いまは管理人がいるから安心だね。新しい自転車に乗れて快適だよ」などと利用者の評判は上々だ。

 

 さて、では道路の走りやすさはどうだろう。日本では自転車はどこを走っていいかよくわからない道路が多い。車道を走るのは怖いし、さりとて歩道を走れば歩行者に迷惑がられる。これじゃあ、自転車に乗る気がしなくなるのも無理はない。

「この町に引っ越してきた人にはこのパンフレットを渡すんです」とギュットラーさんが見せてくれたのは、【Informationen für Neubürger】(新しい市民のための情報集)というパンフレット。これには、ミュンスターで自転車に乗るときに役立つ標識の意味するところや、道路の色分け、道路に引かれたラインの説明などが書かれている。このパンフレットから少し引用して、ミュンスターの自転車交通システムを説明しよう。

●自転車道路

町の中では、赤い石が敷き詰められた1メートルくらいの幅のスペースが歩道に沿って確保されている。これが自転車道路(Radewege)だ。自転車はここを走り、歩行者は原則としてこの上は歩かないから、お互いに気を使わなくてすむ。主要な道路にはすべてこの道がついているから、どこへ行くにも快適、安全に走行できる。

 ちなみにドイツでは自転車は車と同じ右側通行と決まっているから、自転車道路も自ずと一方向に走ることになる。日本のように、歩行者と同じ感覚で自転車道路を逆走すると危険だし、怒られるので要注意だ。

●自転車通り

 幹線道路にある自転車道路は原則として1列になって走るくらいの幅しかないが、この自転車車通り(Fahrradstraße)では道の幅いっぱいに広がって双方向に走ることができる。幹線道路から一般裏道に入った住宅街に多い。ここでは自動車も“走ってもいい”ことになっているが、自足30キロなどと速度制限され、自転車に遠慮しながらの走行となる。

 

●偽の一方通行通り

 日本と同様、丸に横1本線の標識は「進入禁止」。ミュンスターの裏通りにはこの標識がやたらと目につく。一方通行になった道がとても多いのだ。しかし、その標識の下に自転車マークとfreiの文字があると、「自転車は通ってもいいですよ」というサインとなる。ミュンスターでは“偽の一方通行通り(unechten Einbahnstraßen)という名称で呼んでいる。

「自転車に先導してもらっていたら、ら、自動車の自分だけは目的地にたどり着けなかった」、あるいは「すごい回り道をするはめになった」という話は昨今あちこちでよく聞くが、ミュンスターも例外ではない。自転車にやさしい分、ミュンスターの交通規制や道路の造りは、自動車にはちょっと“意地悪”なのだ。

「こんな風に自転車に有利な規則を作って、自動車に乗る人から苦情や反対は出なかったのですか?」と聞くと、ギュットラーさんはにっこり笑いながら、こう答えた。

「だって、普段自動車に乗る人もときには自転車に乗るし、自分は自動車だけでも家族は自転車に乗る、という人もいるでしょう。自転車にやさしい交通ルールは市民のみんなに役立っているのですから、とくに講義や苦情はありませんでしたよ」。これを聞いて、自

動車VS自転車という単純な構図を思い浮かべていた私の目から、ポロリとウロコが落ちた。

 自転車にやさしい町、ミュンスター。人口28万の町だが、所有されている自転車は50万台にものぼるという。単に自転車用の道を造る、大きな駐輪場を造る、といったハード面だけではなく、どうしたら自転車に乗ろう、自転車のほうが自動車より快適だ、と思わせることができるか。そのためにどんな交通規則を作るか。このソフト面もとても大切だ。ミュンスターの自転車政策は、歴史を感じさせる大聖堂と近代的なガラス張りのラートシュタツィオーンが調和して共存する町並みと同様に、先人達の知恵と現代の市民の創意にあふれている。

 

町を走った。納得した「自転車ツアー・イン・ミュンスター」

「自転車の町ミュンスターに来たからには、やっぱり取材の足も自転車でしょう」という編集部・I藤嬢の発案で、車上の人となったカメラマンを含む総勢4人の取材スタッフ。自らミュンスターの自転車マップを製作し、町の隅々まで知りつくしているギュットラーさんについて、ミュンスターの町を自転車で走ることとなった。ミュンスター・レポート・オン・ザ・バイシクル。Also, los!(では、出発!)

 

安全に走行できる工夫があちこちに

 われわれがまず出向いたのはラートシュタツィオーン。ここで自転車をかりることになっている。だけど、管理人さんが私の前に引っ張って来たのは子ども用自転車。身長160センチは日本ではりっぱな大人サイズなんだけど、とぶつぶつ言いながらも、サドルに腰掛けて地面に足が届くことを確認して内心ほっとする。

「ドイツでは自転車は右側通行ですよ」とギュットラーさんに念を押され、最初に向かったのは自転車が自由に行き来できる“自転車通り”。道路に十分な幅があり、自動車はゆっくりの速度で走るので安心してペダルをこぐことができる。友人とおしゃべりしなが

ら道に広がって走るのも、ここなら許されるのだ。

 次の場所に移動するとき、幹線道路を横切ることになった。路上には白いラインで区切られた自転車専用レーンがあり、信号の真下まで続いている。自転車は自動車より一歩先まで進んで信号待ちをすることになる。そうして自動車運転手の視界に入ることで見逃

しによる事故を防ぐことかできるのだ。

 走っているあいだにも、町のあちこちに駐輪場があるのが目につく。鉄柵に自転車をひっかけるだけの簡単な作りだ。なにしろ町には自転車が50万台以上あるのだから、ラートシュタッィオーンだけではとても収容しきれない。そこで建物の規模によって所定台数が止められる自転車置き場を設けるように規制したり、幹線道路沿いの歩道に1日駐輪OKの“路上パーキング”を作るなどしている。

 ちなみにこの路上パーキング、無料ではあるが、所定の時間をオーバーするとチェーンを切ってでも収容場所に持っていかれてしまうとか。罰金などのペナルティはないが、やることがなかなか強行だ。自転車を優先するとはいえとも、あくまでもルールは守らなければならないというわけだ。

 

自転車に乗ったシスターも。プロムナードは市民の憩いの散歩道

 中世からの町並みが残るミュンスターであるが、以前町を取り囲んでいた城壁は第二次世界大戦で破壊されてしまっている。その跡かいまは“プロムナード”として整備され、市民の格好の散歩道となっている。歩いてもジョギングしてもいいし、もちろん自転車で

走ってもいい。ミュンスターが自転車の町として成功したのには、平坦なミュンスターランド(起伏のない平地であることで知られる)に位置する、という特徴も功を奏したに違いない。「ここが町で唯一の急傾斜の場所です」とギュットラーさんが言うゆるい坂も楽勝でのりきれた。プロムナードはアスファルトで舗装された近の両側に大きな木が立ち並び、空気はひんやりとしているが、葉の緑を通したやわらかな日の光かふりそそいで心地よい。木の植えられた土の部分も十分な広さが確保されていて、やわらかい土の感触を楽しみながら歩くこともできる。ミュンスターは東京に比べたら空気がきれいと感じたが、このプロムナードの空気はまた一段と澄み切っている。

 脇に自転車を止めて、自転車に乗ったいい被写体はいないかと待っていると、来る、来る。学生、ヘルメットをかぶった子ども、買い物かごをいっぱいにした中年女性、白髪のさっそうとした老紳士……。小さい子どもは親の自転車の後ろにつけたカートに乗って快適そうだ。グレーの僧衣に身を包んだシスターも威勢良く自転車をこいでくる。町に出たらパトロール中のおまわりさんも自転車に乗ってやってきた。自転車は、ミュンスター市民の生活にすっかり溶け込んでいる。

 

自転車に乗る5つの効用

 ひとしきり町を回ったあと、カフェで一休みすることにした。そんなときも、自転車なら自動車のように駐車場をさがしまわることもなく簡単に止めておける。「ミュンスターでは自転車に乗る5つのメリットを市民に広く知らせています」。アイスコーヒーを飲みながらギュットラーさんが、教えてくれた効用とは。

①安全性。自転車でも事故はあるが、自動車の事故に比べて軽症で済むことが多い。

②簡便さ。車のように免許証はいらないし、そもそも高額な車を購入する必要がない。

③利便性。パーク&ラィドや自転車を列車やバスに持ち込むことができるシステムを推進することで、自転車と公共交通機関の利便性が相乗効果的に高まる。

④経済効果。市民が自動車で郊外の大型店に行くのではなく自転車に乗って市内で買い物をすれば、地元にお金が落ちる。また自転車宅配便(バイク便の自転車版)などで配達する。

⑤健康にいい。

「毎日デスクワークをしている人には、特に自転車に乗ることをおすすめします。自転車をこぐことは有酸素運動です。心臓病の発作が減るという研究結果も出ていますし、脳も鍛えられますよ」。自らも毎日自転車通勤しているというギュットラーさんの言葉には、真実味がある。東京に帰ったらさびついた古自転車をひっぱりだしてきて私も乗らなくちゃ、と心が動く。

 二酸化炭素の排出を減らすために自転車に乗ろう!と声高に叫ぶのではなく、「自転車ってこんなに素敵な乗り物なんですよ」と教え、実際に快適に乗れるようにしてスローなミュンスター方式が市民の共感を得たからこそ、ドイツで一番自転車にやさしい町に選ばれたに違いない。ひと汗かいたあとの心地よい疲労感に身をまかせ、そんなことを考えながら、コーヒーの最後の一口を飲み干した。

 

※地球と人をながもちさせるエコ・マガジン「ソトコト(SOTOKOTO)」2003年11月号より(http://www.sotokoto.net/

 

 

 

 

 
 
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