エアフルト最後の藍染職人
Sigritt Weiss ジグリット・ヴァイスさん
エアフルトはWaid 大青を使った藍染めで財をなした町だった。その歴史は中世以来という。日本の藍染めの「藍」はタデ科の一年草だが、大青はアブラナ科の二年草。大青は、インド航路の発見後、ベンガル産のインディゴ(印度藍)が輸入されるようになるまで、「チューリンゲンの金の羊毛皮」と呼ばれるほど珍重されていたものだった。インディゴが市場に出回るようになると、大青栽培は衰退の道をたどり始めた。もちろん、大青を使った藍染めも減り続け、19世紀には途絶えてしまうことになる。
近年、とある教会修復の際に、当時の材料を使って復元しようという試みの下、保存剤として大青が使われた。これにより、再び大青に注目が集まり始めたという。ヴァイスさんは、インディゴを用いてはいるが、伝統的製法による藍染めを復活させることに注力してきた人物で、現在、エアフルトでただ一人の藍染めマイスターである。
工房では、ヴァイスさんがエアフルトにおける大青栽培や藍染めの歴史、大青を染料に加工する過程などについて説明してくれるほか、実際に伝統的手法による藍染めの工程を実演してくれる。
大青の加工過程はこちらを参照いただくとして、ここではヴァイスさんが実演してくださった染め方について簡単に説明したい。染め方は日本の“ろうけつ染め”と似ている。モーデと呼ばれるスタンプに“ろうけつ染め”の蝋(ろう)にあたる液体を押し付け、それを布地にスタンプする。液体がついた部分は藍に染まらず、ついていない部分のみが染まるという仕組みだ。
モーデは、ヴァイスさんがひとつひとつ手描きでデザインしたもの。それをモーデを作る職人が木に描き移し、一つ一つのパーツに合わせて金属を加工して、木にはめ込んでいく。すべてオリジナル、しかも手作業で仕上げられるこのモーデはとても高価なもので、モーデの数で工房の豊かさが分かるといわれるそうだ。布にスタンプする際には、複数のモーデを組み合わせて使うことが多い。あらかじめ、布のどの部分にどのモーデをスタンプするかをデザインし、ひとつひとつ丁寧に手で押していかなくてはならない。テーブルクロスを1枚仕上げるのに180回スタンプを押すなんてことは当たり前だそうだ。
こうして用意した布を染料に浸けるわけだが、一度浸けて引き上げた段階では緑色に染まったように見える。その後、しばらく放置することで、染料が空気に触れて酸化し、徐々に藍色を帯びていく。この作業をくり返すこと8~9回。十分に染まったら、今度は硫酸液につける。こうすることで、スタンプした部分の液体が溶け、その模様が浮かび上がってくる。その後は水が透明になるまで、繰り返し繰り返し、すすぎの作業。布は日干しされた後、丁寧にアイロンをかけられて、晴れて藍染めの完成となる。
また、たとえば同じ藍色でも、淡い色と濃い色を出したいような場合(一番下の写真参照)は、染めの途中で一旦、最後まで仕上げを行い、淡い色のまま残しておきたい部分にのみ、元と同じ場所に同じようにモーデをスタンプしていく。そうすることで、その後の染めの課程で、他の部分の藍色は濃くなっていくが、スタンプした部分はそのままの淡い藍で残るという具合だ。まさに気の遠くなるような作業。こうして、手間隙かけて染め上げられる藍の色は、ヴァイスさんがひと手間かけるごとに、さらに一段、その美しさが深まるようにさえ感じられる。
Sigritt Weiss
Blaudruckmeister
Muehlburgweg 32, 99094 Erfurt-Hochheim
TEL: +49 (0) 361-22 52 430
FAX: +49 (0) 361-22 52 430
*同施設へのテクニカルビジットはこちらをご参照ください
text & photos by 成田美友
|